デザインの風

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#03 プロダクトデザインにもラブレターは宿るか

こちらは2022年5月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

設計と意匠がぴたりと一致した「機能美」

「風の便り」読者の中にはメーカーなどでプロダクトデザインに関わっている方もいるのではと推測する。プロダクトデザインとは、文字通り製品・製作物のデザイン。いま私の目の前にあるもので言うと、木のテーブルと革張りのイス、コーヒーカップ、冷やタン、白いプレートと銀のフォーク、紙ナプキン・・・(ちなみに仕事が捗らない私は、近所のファミレスに逃避して、ガトーショコラとコーヒーをちびちび舐めながら、本原稿を書いているわけであります)。
それらの製品はガトーショコラも含め、誰かによってデザインされたものだ。プロダクトデザインではよく「機能美」という言葉が使われる。文字通り、その製品の機能を徹底追求した結果できあがった形は必然的に美しいという理論。言い換えると、設計としてのデザインと意匠としてのデザインがぴたりと一致した、完成度の高いデザインといえる。直線のようで微かにカーブを描く箸の美しいシルエット。ちょっと色気を感じるスプーンのくびれ。一つとして同じ模様にならないランダムな木目の味わい。新幹線の流線型やステルス戦闘機のシルエットなども機能美の代表とされている。

V字ジャンプは減点から最も美しい飛型に格上げ

スポーツではこんな例がある。スキージャンプは飛距離点と飛型点(飛型や着地の美しさ)の合計で競うが、1980年代までは左右のスキーをそろえて飛ぶのが美しい飛型とされていた。札幌オリンピックの笠谷選手の飛型である。ところが80年代後半にV字ジャンパーが登場し、それまで下位だった選手がワールドカップで大活躍してしまうのだ。90年代に入ると、多くのジャンパーが減点上等でスキーを開いて飛距離を稼ぐようになった。するとある年、スキーの開きは減点しないことにルール改正されたのだ。理由は「遠くに飛べる飛型こそが美しいはず」という、一見開き直りのような機能美的解釈だったが、いまでは笠谷選手よりも、船木選手よりも、小林陵侑選手のフォームが美しく見える。
カーレースのF1でも、大きくレギュレーションが変わったシーズンの初めは、「なんだこのへんちくりんな車は。カッコ悪!」と思うのだが、数レースを経るうちに、いま速い車がカッコ良く感じるようになる。自然界の植物や動物、もちろん人間のフォルムにも機能美はあてはまるらしい。何百万年も生き抜き、進化=機能の追及をしてきたその姿は美しいはずという論理だ。私のたるんだこの姿も実は美しいはずなのだ。

「デザイナーさんはMacなんだよね」

とよく言われる。その通りなのだが、その言外には「私たちはちがうけど」というニュアンスを感じることも多い。「値段は高いし、互換性は低いし、使えるソフトは少ないのに」と続くのではと想像する。値段が高くても互換性が低くてもクリエイターがMacを使い続けるのを見て、使ったことない人は「さぞかし慣れたら使い心地がいいのだろう」と想像をする。

実を言うと、使いやすいどころか、モデルチェンジするごとに電源ボタンの位置が変わったり、USBポート、SDカードポートスロット、イヤホンジャックなどがことごとく見えないところにあったり、移動しようと持ち上げると手が切れそうに痛かったりする。つまり、便利や使いやすさといった機能性からは程遠いのだ。Macは美しいかもしれないが、決して機能美ではない。
それでも私は、というか多くのデザイナーはMacを使い続けるだろう。クリエイターがMacを使う理由は、その方がイケてる気分になれるからである。イケてるデザインを売り物にしたい身としてはイケてる環境でイケてるツールで仕事をした方が、より質の高い仕事ができるのだ。頭で覚えて使う道具ではなく、触っているうちに自然とやりたいことができるようになる身体の延長のようなものという思想に共感し、もっとインスパイアされたいのだ。ほれているといっても過言ではない。というわけで、プロダクトデザインにも強力なラブは宿るし、スティーブ・ジョブスのみごとなラブレターに、多くのクリエイターがハートを掴まれちゃっているわけなのだ。

ユメックス株式会社 西山耕一

ユメックス株式会社
代表取締役 プランニングディレクター/デザイナー

西山耕一

愛媛県久万高原町生まれ。血液型:O。山羊座。動物占い:ペガサス。14歳でグラフィックデザイナーを志し、21歳でデザイナーとしてプロダクションに入社。23歳で独立、30歳でユメックスを設立し現在に至る。元スタッフ10人以上がフリーランスまたは会社を設立し、心強いパーティを形成。お気に入りの言葉は「デザイナーの仕事はラブレターの代筆」。

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