実務で役に立つ人事労務の話
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#07 副業・兼業を認める場合におさえておきたいポイント
こちらは2021年8月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。
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どんな理由で副業・兼業を始めるのか?
従業員から副業・兼業について相談されたことはございませんか?副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第二の人生の準備等として有効とされており、注目が高まっています。
また、新型コロナウイルス感染症による本業での収入減の影響もあり、生活を維持するために副業・兼業を始めるという人も増えています。

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副業・兼業は認めるべきか?
前述の通り、様々な理由から副業・兼業を希望する人が年々増加する一方、「本業がおろそかになる」、「情報漏洩のリスクがある」、「長時間労働につながる恐れがある」などの理由から、まだまだ副業・兼業を認めていない企業が多いのが実態です。
では、副業・兼業は認めるべきなのか、という点ですが、副業・兼業に関する裁判例では、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由である」とされており、裁判例を踏まえれば、原則として、副業・兼業を認める方向で検討することが望ましいといえるでしょう。
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副業・兼業を認める場合にどんな準備が必要か?
1. 就業規則を改定
副業・兼業を認める方向で検討を進めるのであれば、まずはルール作りが必要です。現行の就業規則に、副業・兼業に関する規定を盛り込みましょう。
副業・兼業を許可制にするのか、届出制にするのか、これがひとつのポイントになります。許可制であれば、原則は禁止で、特定の場合に限って許可することにより、禁止を解除する取扱いです。
一方、届出制であれば、原則副業・兼業は認めるが、予め届け出て内容を通知させる取扱いです。過去の裁判例を踏まえれば、届出制とするのが望ましいでしょう。
適用範囲や対象者(限定する場合)、届出の方法、報告の義務、健康状態の把握・管理、副業・兼業が制限される場合等について規定します。
2. 届出様式の準備・届出内容のチェック
副業・兼業を希望する従業員から届出を受ける際の届出様式を準備し、副業・兼業を始める際は届出を徹底し、届け出られた内容を確認することが必要です。
※厚生労働省の「副業・兼業」のサイトより、書式のダウンロードが可能です。
届出制を採用していたとしても、以下に該当する場合には、副業・兼業を認めないこととするのが良いでしょう。
・自社における労務提供上の支障がある場合
・企業秘密が漏洩するおそれがある場合
・競業により、会社の利益を害する場合
・働きすぎによって健康を害するおそれがある場合
・会社の名誉や信用を傷つける場合
3. 注意事項の説明
副業・兼業を始める従業員に対し、職務専念義務や健康管理、情報漏洩の禁止、就業規則の遵守、勤務時間の報告等の事項について説明を行います。説明を行った内容が後でも確認できるように、書面を用いて行うのが良いでしょう。
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本業・副業の労働時間は通算される
副業・兼業がフリーランス等の一定の場合を除いて、本業と副業・兼業先での労働時間は通算されます。労働時間の管理の方法は、以下の二つがあります。
(1)原則的な労働時間管理の方法
(2)簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)
通算はあくまで従業員の自己申告を元に行います。
ここで、二つの労働時間管理のそれぞれについて簡単に紹介します。
ここでは、本業先と先に労働契約を締結していたものとします。
1. 原則的な労働時間管理の方法
①まず、労働契約を締結した早い順に所定労働時間を通算します。
②次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算します。
この通算した労働時間について、法定労働時間を超える部分のうち、自社で労働させた時間について割増賃金を支払う義務が発生します。
2. 簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)
①本業の事業場における法定外労働時間と副業・兼業先の事業場における労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)を合計した時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の会社の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定します。
②副業・兼業の開始後は、各々の会社が①で設定した労働時間の上限の範囲内で労働させます。
③本業先は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、副業・兼業先は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払います。
文字だけだと少々ややこしく感じられるかも知れません。
副業・兼業を解禁する際は、ぜひ厚生労働省のガイドラインをチェックしてみてください。
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運用上の注意点
働き方改革を進めてせっかく残業を減らしたのに、副業・兼業が原因で従業員が過重労働となり心身に不調をきたしてしまった、というのでは本も子もありません。 普段からコミュニケーションをとり、従業員に対して健康保持のために自己管理を徹底するよう伝え、何か不調があった場合にはその都度相談を受ける体制を整えておくことが重要です。また、過重労働が認められる場合には、自社での時間外・休日労働の抑制や免除を行うことも必要です。
労働者自ら労働時間や健康管理を行うためのアプリの利用を推奨するのも良いでしょう。
参考:厚生労働省「マルチジョブ健康管理ツール」
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あすそら社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント大野 知美
IT企業人事部勤務を経て独立。企業人事出身であることから『当事者目線に立った支援』が強み。主に顧問先企業の人事労務相談や就業規則の作成、各所での講演活動等を行っている。
その他、中堅・中小企業の働き方改革や健康経営の推進、女性活躍の推進にも注力している。